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横浜地方裁判所 昭和28年(行)4号 判決

原告 東海建設株式会社 外六名

被告 横浜市長

一、主  文

被告が原告等に対し昭和二十八年一月二十八日二十八建設第六〇二号を以て為した別紙目録記載の各建物に対する除却命令はいずれもこれを取り消す。

原告等のその余の請求に関する訴はいずれもこれを却下する。

訴訟費用は被告の負担とする。

二、事  実

原告等訴訟代理人は、主文第一項掲記の各除却命令はいずれも無効であることを確認する。訴訟費用は被告の負担とする。との判決を求め、もし右請求が理由ないならば主文第一、三項同旨の判決を求めると述べ、請求の原因として、

原告等の所有に係る別紙目録記載の各建物を含む横浜市中区桜木町一丁目一番地宅地一二〇坪は訴外日本国有鉄道の所有地であるが、日本国有鉄道は昭和二十年九月頃訴外日本通運株式会社にこれを賃貸し、同会社は昭和二十五年三月頃同社労働組合神奈川支部横浜分会に右土地の管理を委任したので、その頃同組合分会は右会社を代理して原告等との間に右土地につき期限の定めなく賃貸借契約を結び、原告等は各自その所有に係る建物の敷地部分につき(但し原告有限会社喫茶店ママ及び原告韓次聖は共同にて)賃借権を得た。そこで原告等は直ちにその賃借に係る地上にそれぞれ本件各建物を建築し、今日まで居住並びに営業を続けるとともに、本件土地賃料(一年分合計約九万余円)を一括して前記日本通運株式会社に対し支払つて来た。

然るに被告は原告等に対し昭和二十八年一月二十八日二十八建設第六〇二号の文書を以て本件各建物が横浜市都市計画街路境域内にあつて、都市計画施設上支障があることを理由とし、大正三年法律第三十七号「公共団体の管理する公共用土地物件の使用に関する法律」第一条に基き本件各建物に対する除却命令を発し、更に同月三十日行政執行のための戒告を発するに至つた。

しかしながら、被告は本件各建物の敷地について管理権を有しないものであるから、前記法律に基き原告等に対し本件各建物の除却を命ずる権限なく、従つて本件各除却命令はいずれも違法の行政処分であつて無効であり、仮に無効でないとしても取り消さるべきものである。

よつて原告等は昭和二十八年二月二日神奈川県庁に対し右除却命令及び戒告の無効を訴願したが、その裁決を待つていては除却期限が到来し著しい損害を蒙る虞があるので右裁決を経ることなく本訴に及んだ。

と、又被告主張事実に対し、

被告が昭和二十一年八月二十六日本件土地の管理権を取得したとの主張については、本件土地が戦災復興院告示により横浜復興都市計画街路事業用地に決定されたこと、昭和二十一年八月二十六日当時本件土地が鉄道省の管理に属する国有地であつたことはいずれも不知であり、その余の事実は否認する。被告が昭和二十五年六月二十一日、同年十二月八日又は昭和二十八年一月二十四日本件土地の管理権を取得したとの主張については、被告主張の建設省告示のあつたことは認めるが、その余の事実は不知である。本件各除却命令を取り消すことが公共の福祉に適合しないとの主張につき、昭和二十五年十二月八日建設省告示のあつたこと原告等に対し被告より換地提供の申出のあつたこと、被告主張の様な勅令告示による建築制限の為されていることは認めるが、横浜市が被告主張の様な買収を行い、日本国有鉄道から土地使用権を取得したこと、国道の交通量に関することはいずれも不知であり、その余の事実は否認する。

原告等が移転を承諾しないのは被告提供の換地が特別都市計画法所定の換地法定坪数にみたないからであり、又原告等の建物が建築制限に反するものであるとしても被告の黙認を得ているものである、と陳述した(立証省略)。

被告訴訟代理人は、原告等の請求を棄却する。訴訟費用は原告等の負担とする。との判決を求め、

請求原因事実中本件土地が日本国有鉄道の所有地であること、原告等が本件各建物を建築し、現に営業を為していること、被告が原告等主張の日に、原告等主張の様な除却命令及び代執行のための戒告を発したことは認めるが、その余の事実は否認する。

本件土地を含む横浜市中区桜木町一丁目大江橋北詰から西区高島通一号国道分岐点までの地域は昭和二十一年八月二十六日戦災復興院告示第百三号を以て横浜復興都市計画街路事業用地に決定された。当時本件土地は鉄道省の管理する国有財産であつたから都市計画法施行令第二十七条第一条及び都市計画法第六条により都市計画執行の任に当る被告が右告示の日に本件土地の管理権を取得した。

更に被告は本件都市計画につき本件土地の使用権取得のため、鉄道省当局としばしば交渉していたところ昭和二十五年六月二十一日東京鉄道局長は東施総二五第一六二四号の三横浜市建設局長宛「桜木町駅西側道路街路計画に伴う用地使用について」と題する文書を以て被告に対し次の意思表示を為した。一、被告が本件土地を道路敷地として使用することを承諾する。二、本件土地は日本通運株式会社及び薛来宏に建物敷地として貸してあるから、これが撤去については被告の負担で被告において交渉すること。三、本件土地価格に相当する換地を提供することとし、これについては別途協議すること。四、土地使用開始から換地決定までの間は有償とし、東京鉄道局の認定する使用料を納付すること。五、前記二、の協議が成立したときは東京鉄道局宛現使用者から土地返還届を提出させ、その後において横浜保線区長の指示により使用すること。以上、建設大臣は昭和二十五年十二月八日建設省告示第千二百十号を以て前記都市計画の横浜復興都市計画街路事業及びその執行年度割を決定告示し、被告は右街路事業施行のため、昭和二十七年五月七日日本通運株式会社及び薛来宏に対して移転補償を行い、右会社及び薛来宏は昭和二十八年一月二十日本件土地を日本国有鉄道に返還したので被告は同年同月二十四日本件土地の使用につき横浜保線区長の指示を得た。故に仮りに昭和二十一年八月二十六日被告が本件土地の管理権を得なかつたとしても、昭和二十五年六月二十一日、同年十二月八日又は遅くとも昭和二十八年一月二十四日管理権を取得したものである。

仮りに本件除却命令が違法であるとしても、取り消さるべきでない。何となれば、建設大臣は昭和二十五年十二月八日建設省告示第千二百十号を以て、本件土地を道路敷に予定する高島町桜木町路線を重要幹線街路整備事業とすること及びその執行年度割を決定した。

現在の横浜市西区桜木町国道三十一号線(幅員三十米)における昭和二十七年度一日平均の自動車等の交通量は五万六百十一台の多きに達し、右街路事業(幅員七十米)の早期完成は喫緊事である。右街路事業に必要とする用地の買収は日本国有鉄道所有地を除き昭和二十五年五月三十一日までに全部完了し、日本国有鉄道所有地については前記の様に昭和二十五年六月二十一日その使用権を得た。而して被告は右土地の使用者十八名に対し換地を提供して移転を勧奨したところ、原告等を除く十一名は協議により円満に他に移転したのに拘らず、原告等が移転を承諾しないため本件街路事業は著しく進行を阻害されている。又原告等の本件各建物は昭和二十一年勅令第三百八十九号「戦災都市における建築物の制限に関する件」第三条、神奈川県告示第四百五十号による建築制限に違反する建築物であり、かつ本件土地は国有財産法第十八条により賃貸借の目的とする事を制限されているから、原告等は本件土地の賃借人ではなく不法占有者である。更に原告等の建物は横浜市における特別都市計画事業のため、早晩移転を命ぜられることは止むを得ない事情にある。以上の事情を総合すれば本件除却命令を取り消すことは公共の福祉に適合しないから、原告の請求はこれを棄却すべきである。と陳述した(立証省略)。

三、理  由

原告等が各々別紙目録記載の建物を所有し、同所において営業を為していること、被告が昭和二十八年一月二十八日原告等に対し本件各建物が横浜市都市計画街路境域内にあつて、都市計画施設上支障があることを理由として大正三年法律第三十七号「公共団体の管理する公共用土地物件の使用に関する法律」第一条に基き、本件各建物に対する除却命令を発するに至つたことはいずれも当事者間に争がないところである。

よつて被告が右法律に基づき除却命令をなしうべきものであるか否かを案ずるに、同法律第一条は公共団体において管理する公物にして現に道路公園堤塘溝渠その他公共の用に供せられる土地物件を濫りに使用し又は許可の条件に反して使用する者あるときは、当該行政庁は行政権に基づき右公物を「原状」に回復し、直ちに本来の用途に復せしめることを適当と認め、同条に定める措置をとることを得せしめたるものと解するを相当とする。しかし本件土地は道路等公共用に使用せられたことなく、初めより原告等の建物敷地として使用せられたものであるから、被告が右法律第一条を適用し建物等の除却命令をすることができないことまことに明かである。しかして右瑕疵は重大ではあるけれども、その瑕疵の存在すること一見明瞭なりとは言い難いから右除却命令を以て当然無効なりとは断じ難く、取消さるべきものである。被告はその主張のような事情に基づき行政事件訴訟特例法第十一条を適用し本件除却命令取消の請求を棄却すべきものであると主張するけれども、前示のように被告は本来前記法律を適用し、除却命令をなしうべき権原がないものであつて右瑕疵は前にも述べたような重大で且根本的なものであるから、行政事件訴訟特例法第十一条を適用し、請求を棄却しないのを相当とする。

なお原告は被告に対し、右除却命令の無効確認を求めているけれども、訴訟の当事者は行政事件訴訟例特法第三条その他法令に特別の規定ある場合を除く外自然人、法人、法人に非ざる社団又は財団にして代表者又は管理人の定あるものに限られるから、原告が行政庁である被告を相手どつた右確認訴訟は不適法として却下せらるべきである。

よつて訴訟費用の負担について民事訴訟法第八十九条第九十二条を適用し、主文の通り判決する。

(裁判官 牧野威夫 森文治 石川義夫)

(別紙目録省略)

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